【 コンサルタントのインサイト 】 DXの真髄を考える ~オペレーション改革の視点から~ 第3回:プロジェクトを成功に導くポイント
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【 コンサルタントのインサイト 】
本シリーズは、Regrit Partnersに所属するコンサルタントが過去に
携わったプロジェクトの経験を横断的に俯瞰し、個別ソリューション
や産業に関する独自のインサイトを発信する記事です
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Principal / Operation
土田 敬太
目次
前回までは企業活動におけるオペレーションの位置づけやオペレーション改革の重要性について述べてきた。第3回以降は、具体的なオペレーション改革の進め方や改革の視点、プロジェクトを成功に導くポイントについて紹介していきたい。
1.一般的なオペレーション改革の進め方
先ずは、オペレーション改革の進め方の概要から説明したい。 一般的なオペレーション改革のアプローチとしては「企画・構想」「調査・分析」「施策検討」「設計・構築」「実行・定着化」の、大きく5つのPhaseに分けて推進していく。(図➊)
図❶ オペレーション改革のアプローチ全体像
図❷ 各phaseにおける主要成功要因(KSF)と陥りがちなパターン
1.1 企画・構想Phase
企画・構想Phaseでは、改革対象スコープにおける"ありたい姿"を定義し、オペレーション改革の目的・ゴールを明確化する。
"ありたい姿”を定義するためには、企業全体および個別事業の方針や戦略を理解したうえで、それらを実現するために対象スコープである機能・組織がどうあるべきか、どうありたいかを議論し、どのように変わらなければならないのか、といった大まかな指針を定める必要がある。
また、漠然と生産性改善という号令が掛かっているのみで改革対象スコープが定まっていない場合は、 打ち出されている方針や戦略に対するインパクトや取り組み難易度の観点からスコープを検討していくことも本Phaseの重要なポイントとなる。
その上で、オペレーション改革の取り組みのゴール(どういう位置づけで、何を、どこまで、いつまでに実現するのか)を定性/定量の両面から可能な限り具体的に設定することが重要となる。
よくある陥りがちなパターンは、目先のコスト削減金額のみがゴールとして設定されいるケースだ(図➋の企画・構想)。このケースでは機能・組織がどういった役割やミッションを持ち、どのように会社や事業に価値提供していきたかというビジョンが無いまま改革を推進してしまうので、現場の従業員は改革に対して後ろ向きな感情を抱いてしまう場合が多い。
自分達のキャリアを踏まえた機能・組織の今後の展望が見えないことによる漠然とした不安によって、自然と現状を維持したいという感情が芽生えてしまう。
改革後の機能・組織の"ありたい姿"、"目指すべき姿"を可能な限り具体的な形で提示し、従業員が次のステージにシフトしていく事に目を向けさせる事が重要なのである。
1.2 調査・分析Phase
調査・分析Phaseでは、定めた"ありたい姿"と現状にどれほどGAPがあるのかを把握する。
現状、対象機能・組織において生み出されている成果(提供価値)と"ありたい姿"とのGAPを問題として定義し、その原因の所在を明らかにするために、第2回で述べたオペレーションの構成要素を調査・可視化していくことになる。
繰り返しになるが、オペレーションの構成要素とは「経営資源」「成果に結びつける仕組み」「成果をモニタリングする仕組み」で構成され、更に「成果に結びつける仕組みは」「BMA:機能・組織、業務、情報、情報基盤」と「ガバナンス:法律や規制等」で構成される。
ここで注意が必要なのは、ただ闇雲にこれらの要素を全て網羅的に調査することは得策ではないということだ。時間がいくらあっても足りなくなってしまう。
常に全体を俯瞰しながら個々要素の構造関係を明らかにし、原因の初期仮設の検証や調査目的に沿った"広さ"と"深さ"で調査することが重要となる。(図➋の調査・分析)
1.3 施策検討Phase
施策検討Phaseでは、前Phaseで特定したGAP(問題)を解決するための具体的な施策を検討する。
機能・組織の再整理、業務プロセスの見直し、シームレスな情報受渡の検討、情報基盤(システム)の刷新、中長期的な人材の育成等、経営資源およびBMAのどこにメスをいれていく必要があるか、またそれらの施策はどういった構造関係にあるかをしっかり吟味していく必要がある。
また、施策検討においては、昨今トレンドとなっているデジタル活用ありきではなく、真に問題の解決につながるイシュードリブンなアプローチが重要となる。
そのうえで、検討した施策に対して取り組み難易度、コストやリードタイム、"ありたい姿"に対するインパクトといった観点から実現可否を判断し、取り組む優先順位を決定していく。
短期的に取り組むことができる現状の延長線上の小さな改善も重要ではあるが、"ありたい姿"に対してインパクトある抜本的な構造改革を実現する大胆な発想も併用して検討を進めてもらいたい。(図➋の施策検討)
1.4 設計・構築Phase
設計・構築Phaseでは、検討した施策を詳細に設計し、必要に応じて様々なデジタルソリューションを構築しながら、具体的なオペレーションを作り上げていく。
本Phaseでは実運用を見据えた詳細かつ緻密な設計が求められるが、一方で一定の割り切りも重要である。
机上で100点を目指そうとすると、どんなに緻密に検討しても100点に到達しないまま、全ての業務パターンを網羅すべく延々と同じPhaseに留まることになってしまう。
対象領域が事業継続において非常にクリティカルな場合を除き、設計は70~80点を合格ラインとして、可能な限り早めにパイロット運用を開始して、運用しながら継続的な改善と共に100点に近づけていくアプローチが有効である。(図➋の設計・構築)
また、ここからは様々なソリューションベンダーがプロジェクトに参画してくるため、マルチベンダーコントロールを踏まえたプロジェクト管理体制の強化も必要となってくる。
大規模な改革プロジェクトの場合は、個々に走る取り組みテーマの歩調や方向性にズレが出ないようPMO組織を立ち上げ、取り組み横断的な視点での課題管理、品質管理、スケジュール管理が重要となってくる。
大規模な改革プロジェクトの場合は、個々に走る取り組みテーマの歩調や方向性にズレが出ないようPMO組織を立ち上げ、取り組み横断的な視点での課題管理、品質管理、スケジュール管理が重要となってくる。
1.5 実行・定着化Phase
最後の実行・定着化Phaseでは、作り上げた新たなオペレーションを現場に落とし込み、定着化させ、成果を刈り取っていく。
新たなオペレーションを運用するためのマニュアルや手順書等をしっかり準備し、計画的に各オペレーションの現場に新オペレーションを浸透させるための教育を実施していく。
また、運用開始後の混乱時期を乗り越えるために、日々のオペレーション状況をモニタリング・フォローする仕組みも構築し、継続的な改善活動を経ながら新オペレーションを定着化させていくことになる。
このPhaseにおいては、新たな仕組みの定着化に伴い、従業員の変化に対するマインドチェンジを促すチェンジマネジメントプログラムの実行も重要である。
大規模な改革を成功させるためには、従業員の変化に対する抵抗に如何にして向き合っていくかという点も重要ポイントとなってくる。
また、このPhaseで注意しなければならないもう1つのポイントとしては、新オペレーションの運用開始後、継続的な改善活動をクライアント自身が推進していくことができるかどうかである。
よくあるパターンとしては、それまでプロジェクトに参画していたコンサルやSIerがいなくなった途端に改善・改革の取り組みがストップしてしまい、そこから何も変わらなくなってしまうというケースである。
そのようなケースに陥らないためにも、プロジェクト全体の推進を通じて次世代の改善・改革リーダーを育成することを意識し、社外のパートナー企業から改善・改革のスキル・ナレッジトランスファーをしっかり行っていくプログラムも必ず取り入れて頂きたい。(図➋の実行・定着化)
以上で5つのPhaseの概要を説明したが、やはり一番大切なPhaseは最初の企画・構想Phaseである。
大規模な改革を実現するプロジェクトは、非常に難しく、いくつもの障壁が行く手を阻んでくるものである。ブレない指針、目指すべきゴールがないと、その度に「どう舵取りしたらよいのか?」「最善の判断は?」とプロジェクトマネージャーが暗中模索することになってしまう。
明確な目的・ゴール設定が各Phaseにおける様々な判断の拠り所となるのである。(図➌)
図➌ “ありたい姿”を反映した目的・ゴール設定が重要
(第3回了)

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