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【 コンサルタントのインサイト 】
本シリーズは、Regrit Partnersに所属するコンサルタントが過去に
携わったプロジェクトの経験を横断的に俯瞰し、個別ソリューション
や産業に関する独自のインサイトを発信する記事です
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株式会社Regrit Partners
Associate Director / Operation
大木 聖也

【本編】
【コンサルタント職≠事業家(企業経営)】
採用面接の中で「何故コンサルタント職として働きたいのか?」という問いに対して、「経営に近い立ち位置で課題解決を・・・」や「コンサルタント職で経験を積んだ後は事業ローンチ、起業などを視野に入れて・・・」といった回答を頂くことが非常に多い。
「コンサルタント職」と「事業家(企業経営)」という職種は直列延長戦上でキャリア形成できるものではない。サッカーと野球の違いと同じように全く求められる要素が異なる。
コンサルタント職に10年近く従事した後、新規事業ローンチや自社経営に携わっている経験から、コンサルタント職から「事業家(企業経営)」に挑戦する際にどのような要素が必要なのかを独自の切り口で述べていきたい。

まず、新規事業ローンチや企業経営(ここではベンチャー/スタートアップを対象)を考える際、「0→1フェーズ」、「1→10フェーズ」、「10→100フェーズ」という視点が良く出てくる。
■「0→1フェーズ」:無の状態からプロダクトやサービスを創出、事業立ち上げ 
■「1→10フェーズ」:一定度立ち上がった事業を安定した収益化状態へ持っていく
■「10→100フェーズ」:収益事業を中心にピボットさせながら、よりインパクトのある規模へ会社・事業を持っていく

このように、事業・企業成長のフェーズによって事業家(企業経営)に求められるスキルや能力、マインドは異なってくる。また、各フェーズの切り替えタイミングに経営層は適切な人材にバトンタッチしていかなければネクストフェーズを乗り越えられないという事態も起こりうることを意味している。

【事業家(企業経営)に必要な3要素】
本記事では「0→1フェーズ」と「1→10フェーズ」にフォーカスを当てて、どのような要素が必要なのかを述べていく。
まず最も重要な要素として以下の3点が挙げられる。
■スピード感
■組織・人材マネジメント
■圧倒的な当事者意識(執念)

【スピード感】 
新規事業ローンチや企業経営の場合は0から1を創り出すのが仕事であり、「0→1フェーズ」「1→10フェーズ」問わず、常にネガティブかポジティブかの意思決定を日々求められる。事業規模・企業規模の成長と比例して判断事項は増加してくる傾向にある。
こうした状況下では、下調べをしっかりして分析、実行という正攻法のアプローチを常時行っていると意思決定スピード落ちてしまう。まずは一定の仮説とブレない指針を基に「まずは正しいという選択肢」を都度判断することが求められる。大事なのは判断が誤っていた場合、再度スピーディーにその失敗理由を分析し軌道修正することだ。このサイクルをスピード感をもって繰り返すことで事業そのものやサービス/プロダクト、内部/外部向けのオペレーション体制などを構築していくことが必要である。つまり、失敗することを半ば前提としてどんどんチャレンジすることだ。

コンサルタント職を経験している方が陥りがちなポイントのひとつがまさにここである。 
クライアント向けのコンサルテーションでは「10→100フェーズ」に関わるプロジェクトが多く、対象となるステークホルダーや投資額も大きい。そのため、論理的に構築されたストーリー、納得感を持った合意形成を図るといった「クセ」が染みついてしまっている。
そのため企業経営の最初のフェーズにおいても、しっかりとした調査・分析や関係者との協議・ディスカッションを手厚く取る、仕組みに頼ろうとする、といったプロセスを経る傾向がある。事業や企業は謂わば“生き物”だ、パソコンの前での取り纏めや会議室での評論家に近しいような協議ばかりでは“生き物”が弱まる一方である。

さらに深掘りすると、調査・分析の深度はコンサルテーションでは有意義なプロセスかもしれないが、所詮仮説は仮説に過ぎない。そこで6割程度の確証を持った時点で試しにやってみて、検証してしまうことが重要であり、効果的だ。事業(企業経営)を経験している方からすると当然のことだとは思うが、コンサルタント歴が長い方ほど職業病なのかこうした鈍った感覚を持ってしまうことがあるので注意が必要である。

【組織・人材マネジメント】
次の重要な要素が「ヒトや組織」に関わる要素だ。
新規事業や起業した際に、まず苦労するポイントは「人的リソースの確保」である。コンサルタントという職種では、既に自社に上位層~スタッフ/メンバー層まで人的リソースが確保されている。そこからプロジェクトチームを組成し、プロジェクトにおいてクライアントの課題/論点や方向性など各種設定されている中でワークを進めていく。
しかし、新規事業ローンチや起業した際は人的リソースを自らが動いて獲得しに行かなければスタートはほぼ不可能だ。また、初期であればあるほど、その人材が事業や会社の舵を大きく左右することになるので自分自身の目利きが非常に重要になってくる。
優秀な人材を巻き込めるかどうかには事業・会社のビジョンも勿論重要ではあるが、事業家(企業経営者)自身が魅力的かどうかというエモーショナル側面の方が大事なポイントであると考える。

人的リソースが確保できた後に本当の組織・人材マネジメントのフェーズがやってくる。事業や企業が成長するにつれて様々なバックグランド、価値観が異なるメンバーが増加し、マネジメント力が今後の成長可否を左右するようになってくる。
経営コンサルタントの冨山和彦氏が述べているように「組織(会社)は頭から腐る」(*1)ということをマネジメント層がしっかり認識し、日々のマネジメントやメンバーとのコミュニケーションで体現できているか否かを確認することが重要だ。
コンサルタント職が経験するプロジェクトマネジメントは「プロジェクトゴール(成果物)」に向けてマネジメントを行うというシンプルなものであるが、事業や企業における組織・人材マネジメントは状況や起きている事象によってマネジメント手法や対処方法が都度変化してくるケースが多い。コンサルタント職では経験できない「組織・人材」に関わる問題・課題に対して最適解を導きながらマネジメントできるか否かがポイントになる。そうした場合のお勧めの方法は、順調に経営している近しい事業家や企業経営者からマネジメントの要諦をヒアリングし「徹底的に真似る」ことである。「自身のマネジメント力は新卒レベルである」と前提に置く柔軟性が大事ではないか。

【圧倒的な当事者意識(執念)】 
最後の要素はメンタリティー/マインドに関わる「当事者意識(執念)」である。
当事者意識はコンサルタント職、事業家(企業経営層)などに関係なく重要なマインドだが、大事なのは「圧倒的な当事者意識(執念)」をフックにどこまで自身が抱えている領域、責任管轄を深く思考できているのかだ。これが出来ているからこそ、常に重要課題の解決に向けて先手先手で打ち手を講じることが可能であり、必要な状況でスピード感を持った判断をすることが出来る。また、組織・人材マネジメントの観点でも、遂行していかなければならない事象に対して「明言・チェック・判断」のサイクルを怠ることなく実施しているかという点も「当事者意識(執念)」に起因するものだ。

コンサルタント職はクライアントが相談する相手であり、自ら先頭に立って陣頭指揮を執る存在というよりも対等な立場でクライアントに寄り添いながらサポートする立場である。最終的な売上責任や配下のメンバーに対する責任と覚悟など背負っているモノが事業家(企業経営層)とコンサルタント職を含めた他ポジションでは大きな差があり、これが「圧倒的な当事者(執念)」を生み出している真因だと考える。
むしろ、この「圧倒的な当事者意識(執念)」がない人材が事業家や企業経営層に居座ること自体が組織を頭から腐らせる根源となるため、1秒でも早い牽制や配置転換を意思決定が必要だ。

*1 参考:冨山和彦「会社は頭から腐る―あなたの会社のよりよい未来のために「再生の修羅場からの提言」」ダイヤモンド社 2007/7/13 

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