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【 コンサルタントのインサイト 】
本シリーズは、Regrit Partnersに所属するコンサルタントが過去に
携わったプロジェクトの経験を横断的に俯瞰し、個別ソリューション
や産業に関する独自のインサイトを発信する記事です
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株式会社Regrit Partners
Associate Director  / Technology
深見 忠義 

「調達組織において、調達戦略を立て、調達戦略に基づき、調達プロセスを実行できている」 

そのような理想的な調達組織は多くはない。 
専門の調達組織すらなく、兼務でルーチンワークとして調達業務をこなし、与えられたコスト削減目標や予算にミートするようにサプライヤーと交渉する。そういった組織も未だに多い。 

2010年頃から戦略的調達(以下カテゴリマネジメント)がトレンドとなり、データドリブンな調達プロセスへ変貌していったが、それ以前の調達業務はまさに担当者の経験等に裏打ちされた職人技であった。また現在も、戦略的な調達部門を目指して組織改革を仕掛けても、形だけで戦略の中身がなく、永続的にバリューが出せないため、社内ステークホルダーから認知されずに形骸化するという課題に直面する調達組織も少なくない。 
ここでは、調達戦略としての基礎的な考え方の事例を示し、効果的な打ち手を紹介したい。 

目次


そもそも戦略的調達とは何か? 

調達の世界ではカテゴリマネジメントと呼ばれる。調達している材を同等のカテゴリ群に分けて管理し、カテゴリ毎に戦略を立てていく手法である。例えばITをカテゴリとし、さらにインフラ、ハードウェア、ソフトウェアをサブカテゴリとするといった区分けである。(カテゴリをマテリアルグループと呼ぶこともある) 

なぜカテゴリ毎の管理をするのか。同一カテゴリ内ではサプライヤーがお互いに競合するため、サプライヤー間の関係理解(古典的には5フォース分析)が可能だからであろうと私は考えている。 

調達戦略の立て方 

調達戦略(あるいはカテゴリ戦略)の立て方については、どの書物を読んでも概ね以下のステップで書かれており、3年程度のスパンでPDCAサイクルを回していくことが推奨されている。 

1.スペンド分析、デマンド分析 

2.マーケット分析 

3.戦略オプションの策定

1.スペンド分析、デマンド分析

システム基盤が整っていれば、過去の調達データからスペンド分析は可能である。また、社内デマンドは財務部に問い合わせれば、次年度以降の予算から推定できる。調達担当者には初歩ステップである。

2.マーケット分析

マーケット分析は少し骨が折れる。私の場合はサプライヤーとの面談の度に「御社から見て競合はどこで、お互いの強みは何か」をヒアリングし、自分なりのマーケットマップを作っていた。調査会社等を使って、当該マーケットのプレーヤーを調査することもある。 

3.戦略オプションの策定

需要と供給のデータが集まった段階で、関係者でサプライヤープールの見直しなど、戦略のオプションを洗い出す。 

調達戦略の立案事例 

ここでは、調達戦略を立案していく上でまず考えるポイントを事例としてご紹介したい。ベーシックなDay1 Analysisであり、コスト優位性を主軸として考える。 

取り組みやすい観点として、当該カテゴリマーケットにおいて顧客とサプライヤーの位置関係を確認してみる。 

調達しようとしている製品がコモディティの場合、顧客数もサプライヤー数も多数であることから、上記の図において第Ⅰ象限に分類される。ジェネリックなマーケットであるため、製品の価格は需要と供給のバランスで決まる。また代替製品の類似性も高いため、サプライヤーへの依存度も低い。例えば、乾電池を購入したい人が、どのメーカの乾電池がいいかこだわりがある人は少ないであろう。 

このようなマーケットでは、サプライヤーとの個別交渉よりも、調達工数の削減やボリュームバンドリング、抱き合わせ購入などが主な打ち手となる。 

第Ⅰ象限での主な打ち手例 

  • 調達工数削減(カタログ購入化) 
  • ボリュームバンドリング、プリファードサプライヤー化(テールエンドマネジメント) 
  • 別製品との抱き合わせ購入による価格交渉 

一方で、第Ⅲ象限は顧客数とサプライヤー数が少ないことから、独占状態あるいは寡占状態である。例えばクアルコムなどのチップとケータイメーカーの関係などである。この状態で最も重要な観点は、双方の関係性維持である。サプライヤーではなくパートナーである。安定的に調達するため、エクスクルーシブ契約、協定、合弁またはM&Aなどエンタープライズレベルでサプライヤーマネジメントを行う。 

M&Aまでいくと話が大きくなりすぎるので、ここでは考えやすい規模の事例として製造委託の事例を考えてみる。製造委託なので、買い手の仕様と買い手の技術次第で1対1の独占となる可能性がある。この場合、牛1頭1頭を管理するわけでなく牧場と契約するわけなので、サプライヤーの経営方針の理解から現場の工程管理まで、サプライヤーの経営者と同じ目線に立ってQCD総合的に管理する必要がある。トップ同士の面談や、経営層同士でのステアリングコミッティの開催などは有効な手段である。 

話をコストの観点に戻すと、独占あるいは寡占状態では競争原理が働かないため、需要と供給のバランスで価格決定がされにくく、積み上げでコスト管理を行うこととなる。その際に使用する手段としてShould-Cost分析がある。マーケットベンチマークの積み上げコストと実際に支払っているコストの差を見て、コスト差の原因分析を行っていく手法である。
 

サプライヤーとはパートナー関係であるので、どの部分にコスト改善の余地があるかを特定し、サプライヤーと交渉ではなく協働のスタンスでコスト削減に取り組むカイゼン的な運用が望ましい。あくまでも関係性ありきで、関係性がなければ、そもそもコスト構造の開示も望めない。 

私が取り組んだ事例として、委託先の原料サプライヤー(Tier2サプライヤー)が想定よりも高コストであったために、委託先と協力してTier2以降の原料サプライヤーの最適化を行った事例などである。 

まとめ

このように、商材やマーケットの特徴を理解した上で、調達戦略を立てて複数年の調達方針を立てるプロセスは、カテゴリマネジメントの過去10年の調達界隈のトレンドであった。それにより、単発のコスト削減で終わらず、永続的にコスト削減に取り組めるという利点があった。

同時に、サプライヤーマネジメント手法やカテゴリマネジメントの応用など様々な試行錯誤もされた10年であったように思う。次回以降で触れられればと思う。 

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